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黄昏色の樹の下で |
一章 八話 |
次にウィスタが向かったのは財務局だった。ここは将軍の執務室とは違い人がせわしなく働いていた。 「バラナ様、よろしいでしょうか」 先日保管庫に運ばれた財務局の上半期の書類のことを言っているのだろう。 「はい」 バラナはその書類の署名欄を見ると、陰鬱気にため息をついた。バラナは日ごろそのような表情をあまり出さない人柄だとウィスタは認識していたので、不思議に思い問いかけてみる。 「その書類に何かありましたか?」 どこかで聞いたことのあると思ったら、それは将軍に聞いた事件だった。 「私も将軍の所でそのお話を伺いました。非常に残忍な盗賊なようですね…。でも、いくつもそんな事件が起きているとは知りませんでした。将軍の書類には一つの村の被害状況しか記されていなかったので……」 うっかりと将軍に返した書類の内容をしゃべってしまったが、どうやらバラナはそのことに気づいてはいないようだった。 「妻の義父のお友達の恩人がレイト侯爵のお父上だということで、私を頼って来てくださり、減税を求めてきました」 よくわからないつてだ。 「そのような痛ましいことが起きているのなら、できるだけ候の領地の一時的な減税を認めたいと思っているのですが、なかなか議論する間も無くて。さすがに私の一存で決めることも
できません。それに、侯の土地は前代の頃から、天候不良による不作が続いていて、その関係ですでに減税を行っています。ですので……これ以上の減税が難しいのが現状なのです」 どうやら、バラナはこの痛ましい事件に心を痛ませると同時に、煩雑な仕事が増えて憂鬱になっているようだった。 「あまり思いつめないようにしてください。まず、一つ一つ積み上げていきましょう。レイト候もご自身の領地のことですし、減税のために必要な情報として確かな被害状況を報告するようにお願いしたら、ちゃんと調べてくださいますよ」 バラナは嬉しそうに「ありがとうございます」と丁寧なお礼をした。 「どうもさっきから、いい気分で執務室を出ることができないな……」 ウィスタは肩を落としながら、文書館へと戻った。 |
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