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黄昏色の樹の下で

一章 三話

 ホド国の前国王は過度な浪費癖も無く、如何わしい趣味にふけることも無く、後宮の妻達を分け隔てなく愛し、ほどほどに仕事をさぼりつつも行き過ぎない王だった。
その王には母親の違う美しい容姿の二人の息子がいた。


 当時のホド国第一王子は己をよく知っていた。
聡明で正義感が強い第一王子は、宗教心に篤く、過度に公平を求めすぎてしまう性質だった。
王宮内の貴族達の汚い駆け引きや淫らな遊びに眉をひそめる自分は、王という地位に立つには向いていないという事もわかっていた。
眩暈がしそうなほどきつい匂いの香水をかぎ、わけのわからない睦言を囁かれるよりも、香を焚き染めた神殿で歌を聴きながら祈りを捧げたいと思っていた。


 当時のホド国第二王子は兄のことをよく知っていた。
彼は世継ぎであるところの第一王子が、国王という座に向かないこと、そして望んでもいなことを知っていた。
兄は国内にある歌の神殿の奥深くで日々祈りを捧げ、教えを説く生活をしたいと望んでいることを知っていた。
そして、自分も王座に興味は無いが兄が嫌がるなら自分が王となっても構わないとも思っていた。


 そして、ホド国にとって幸いなことはこの異母兄弟は仲が良かった。
お互い相談をし、二人そろって父であるところの国王陛下にお願い申し上げた。


 第一王子曰く、私は国王となるべく必要な器量に欠けるところがございます。どうか、弟に王位継承権をお与えになってください。
 第二王子曰く、私は兄が望むのならばこの身をホド国に捧げることを厭いません。
 国王曰く、二人が良いというのならば構うまい。第二王子に第一継承権を与えよう。


 しかし、不幸なことはお互いの母親は権力にひどく執着を持っていたことだった。
まったく積極的でない二人の王子を差し置いて、二人の母親とその生家はいきり立って自分の息子を未来の国王にするべく奔走し、国が荒れた。

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