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黄昏色の樹の下で |
一章 二十四話 |
山を見回っていたイリナ達は、雨脚が強まったのを機にその日の捜索を打ち切ることにした。ウィド達は途中の道での別れ際、明日も引き続き捜索への協力の約束をとりつけて別れた。 「あまり収穫はありませんでしたが、一応イリナ殿の母国の言葉らしい字と、地図を写してきました」 しかし、やはりと言うべきなのか否か、その日の夜の報告会議でマルテが見せた手帳の字に誰も心当たりがない様子だった。 「遠い国なのかもしれませんね」 その場にいた面々は頷いた。 「レイト侯爵と協力できたらいいんだがなぁ。盗賊にも侯爵にも隠れながら……というのが難しい」 近隣の村を監視していた騎士達はレイト侯爵の兵を見かけない。 「あっちも隠密で動いているんだろう。無闇に接触してゴタゴタするのは嫌だから慎重にいかねば」 結局あまり話は進展しないまま現状維持という結論に達し、解散となった。 ウィド達と別れたイリナは、小屋へ戻ると寝室のドアの前でしゃがんだ。 「大丈夫。大切な物、全部、ここにはない」 --- 次の日もウィドと数名の騎士はイリナの小屋へと向かい、マルテはマルテでイリナの地図の印がある位置には何があるのかを 調べにそれぞれ山へと入っていった。 「イリナ殿、今日もよろしく頼む」 昨日と同じように大きなカバンを肩から提げて、イリナは小屋から出てきた。ホムラも一緒らしい。 「今日、マルテ、いない?」 鉢合わせをしてしまった場合を考えて、一応マルテはこの山にいるということだけは嘘をつかなかった。 「そう」 イリナは走り出したのを見て、ウィド達も馬を走らせる。 ――人間ではないようだ。まるで…… 「魔族……」 ウィドの呟きに反応した騎士に首をふって答えながら、頭に思い浮かんだ言葉を打ち消した。 だが―― ウィドはその考えを否定する。過去、人間が魔族を酷く虐げた過去があるために、多少例外はあるが基本的に魔族は人と関わるのを嫌う。だから、このように人間の生活に馴染んでいるイリナが魔族とは思いがたい。 |
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