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黄昏色の樹の下で |
一章 二十話 |
その日の夜、反省や今後の計画を考えるために、村長の家へと向かった。小隊長や班長も含めた話し合いのため、天幕では少々不便だから、村長の家の部屋を借りたのだ。 「夜分に申し訳ない。できるだけ静かに行う」 村長は、夜中にもかかわらず精一杯の正装をして訪れた騎士達を出迎えた。 「村長は気にせず寝ていてくれ」 充分な保存食を持ってはいたが、温かい朝食は魅力的だ。 「かたじけない。喜んでもてなしを受けたい」 村長が自室に戻ろうとしたところで、ふとマルテが村長に尋ねた。 「そういえば、村長たちはあの村にあった足跡を見ましたか?」 怪訝そうな顔をしながらも、村長は二階へと消えた。 会議用に借りた部屋になんとか全員が入ることはできたが、椅子の数が足りずに周囲の家から集めておぎなっていた。バラバラな椅子に身を寄せ合いながら面々が座っている様は、どこか笑いを誘った。 ウィドは並ぶ騎士達の前に出て、今日の報告を行った。 「――と、いうわけで、あまり芳しい発見はなかった。他に、補足がある者はいるか?」 かいつまんで昼間の報告を終えると、ウィドは尋ねた。すると、マルテが手を上げる。 「一つ、気になったことがあります。盗賊……と仮定すると、物取りが目的なのですよね」 はっとしたように、周囲がマルテを見る。 「確かに……」 ガタリとドアの外から音がした。 「誰だ!」 ウィドがドアを開けると、そこには村長がいた。 「も、申し訳ありません。この周囲の詳細な地図をご所望ということだったので……あの、手製の稚拙なものですが、お役に立てればと……」 慌てて足元にあった小さな木箱を拾った村長はの目は泳いでいた。 「何か、ご存知ではないのですか?」 動揺している様子の村長に、マルテは一歩近づいた。 「いえ、何も」 追い詰めるようにしていた、マルテを押しのけウィドが優しげに村長を説得する。 「証拠も何も無いのに、あの少女を無理に問い詰めることはしない。ただ、知っておきたいのだ。知らないと疑心で目も曇る。 それに、何かが起きた時の対処の早さが違うのだ。どうか、わずかなことでも教えてもらいたい。この村を救うためでもあるのだ」 最後の言葉で村長は落ちた。 「な、何か証拠があるわけではありません。イリナは、まったく盗賊を怖がっていないようだったので、 まるで自分は安全だとわかっているように見えたのです。しかし、イリナはあの山をよく知っている上にあの身軽さです。ですから、 そこから来る驕りと言うか、自信からそのような態度なのかもしれません」 あの二つに分かれた一方の道は川だった。しかし、もう一方は、ウィド達も通ってきたイリナがいる山へと続く道。 「それに、自分から被害を報告して来ているのですし……」 なおも、村長は言い募る。 「事情はわかりました。教えてくれてありがとうございます」 マルテは安心させるように、村長の肩をさする。 「あの子は流れ者ですが、非常に聡く、また薬草の知識で村を助けてもらっております。しかし一度、村人に疑われればどんなむごい
仕打ちをうけるかわかりません。どうぞ、村の人間の誤解を招くような態度を彼女には――」 村長は何度も、「なにとぞなにとぞ」とすがってから部屋を出て行った。 「イリナ殿か……」 コロエ村に着く前に散った騎士達の報告では、他に二つの村が既に被害に合っているようだった。 「やはり、ここら一帯を集中的に狙っているが、だんだん南に下がってきている気もする」 しかし、ほとんど手がかりのない今の状態で、捕まえられるのかウィドは不安だった。 |
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