BackNovelTopHPTopNext

黄昏色の樹の下で

一章 十七話

 宿に戻ったウィドは部下に休むように言い、自身も部屋へと戻った。ウィドはマルテと相部屋だった。

「なかなか良い教育をしているな」
「ですね」

 あそこであっさりと手土産を受け取る騎士だってざらにいるのに、詰め所にいた騎士は手を出そうとはしなかった。周囲が驚く中で受け取っていた騎士は、ウィドとマルテの正体に気づいていたのだろう。すぐに使いが来るはずだ。

「こうなってくると、いろんな所で商人の格好をして同じことをしてみたくなるな。賄賂を受け取るか受け取らないか試してみたい」

 意地悪そうな顔でウィドは笑った。

「中隊長も試されるかもしれませんよ」
「菓子だったら受け取るな」
「そこで自信満々に言われても」

 マルテは呆れ顔で言い返したときにノックがした。それはまずゆっくり三回ノックされて、その後一泊置いてから今度は早めに四回。

「お」

 マルテがドアを開けると、そこには緊張した面持ちの若い騎士が一人いた。

「はじめまして。朱金の隊のアレンと申します」
「よく来てくれた。わざわざ呼びたててしまってすまない」
「いえ」

 アレンは憧れの目を二人に向けていた。
 二人の所属する白の隊はそう簡単になれるものではなく、何度も試験を受けなければならない。それでも王族を護衛をしたり、黒の隊ほどとは言わないまでも、今回のように隠密で動くこともあるこの隊への入隊の希望者は多く、倍率は常に高い。朱金と紫金の両方からも編入希望者が後を絶たない。

「さっそく、最初に見た村の様子を教えてもらいたい。確か君は実際に村を見た一人なんだよな?」
「はい。……おそらく、報告書に書かれていることと大差はないと思いますが」

 そう前置きしてアレンは村の様子を話し始めた。何度も聞かれて答えたことなのか、アレンの説明によどみはなく、ウィドやマルテの質問にもすらすらと答えていた。

「本当に大差ないな。しかたがないか」

 申し訳ないようにアレンが縮こまる。

「アレン、今日の夜に宿舎へ行きたいのだが、いいかな?朱金の中隊長にお願いした物資などを受け取るてはずを整えたい。あと、白に一時組み込まれる奴らの顔も見ておきたい」
「はい!そちらは全て整えてあります。では、今晩ウィド中隊長が訪問されることを、うちのザイル中隊長に伝えておきます」
「明日の朝早くに出かける予定だから、準備を整えておくように伝えてくれ。もちろん、目立つようなことのないように」
「はい。わかりました」

 今日着いたばかりなのに……とアレンは密かに思ったが、これくらいのタフさがなければ白の隊ではやっていけないのかもしれない。
 それからいくつか確認をした後、アレンはウィド達から菓子を貰い、帰っていった。

「んー。なかなか元気な小僧だなぁ。15くらいか?」

 ウィドはくつくつと笑う。

「本当に元気ですね。あんな子どもが僻地の任務で頑張っている姿を見ると、私もしっかりせねばと襟を正す思いです」

 後日、発育不良気味のアレンが実は18歳だと聞いて、二人はアレンに後ろめたそうに菓子をあげていた。ひそかに、詫びのつもりだった。アレンは事情も知らず、素直に喜んでいたが。

 日が落ちてから、ウィドは騎士の宿舎へと赴き、今後の計画を伝え、白の隊に組み込む予定の騎士と顔合わせ等を夜遅くまで行ってから宿へと戻った。
 さすがに疲れたのか、ウィドは戻るとすぐにベッドに横になり、眠りについていた。

 翌朝。朝早くに宿を出て、馬車で村をたった。目指すのは最初の目撃者がいる村だ。
 その道中で、ばらけて出発した朱金の騎士達も合流する。一度合流してから、事前に指示してあった通りに、四騎ずつに分かれて再びばらける。そのまま集団で進めば目立ってしまうからだ。ついでに情報収集も兼ね、それぞれが指定された村が無事かどうかを確認した後に、目指す村へと向かい合流する。

 この時期には珍しく、陽気な日差しだった。

 BackNovelTopHPTopNext