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黄昏色の樹の下で |
一章 十二話 |
文書館から引っ立てられたダルシャは、執務室の窓から外を眺めながら物思いにふけっているようだった。 「陛下、お茶をお持ちしました」 からかうように、ダルシャはポットとカップを乗せた銀のトレイを持っているイアンに笑いかけた。 「侍女達が忙しそうにしていたので」 侍女達が総出で探しているのだ。 「我が息子ながら、なかなかやるな」 だからと言って、そう簡単にいかないだろう。イアンはため息をついた。 「簡単に言ってくれますね……」 ダルシャは机の上に広げられた地図を指でなぞっていた。先ほど保管庫から持ち出した地図だ。 「それほどひどいのでしょうか」 イアンは肩をすくめる。そこでノックがしたと思うと、将軍のアルシャが入ってきた。 「お呼びときいて参りました」 三人で執務室に備えられているティーテーブルに座った。 「ところで、この村の報告書を渡すときに言っていた、村人を全員集めて殺さなくてはいけなかった理由……何か思いついただろうか」 「ウィスタ殿が言っていた仮面でも隠せない特徴を基準に考えて、例えば、異様な身体の形をしている、持っている武器等が特殊、言葉に訛りがある……これらよって、自分達のことを特定される恐れがある場合。あとは……実は魔族の類なのではないか……など」 どこか言いにくそうだった。 「魔族か……」 例外はあれど、魔族は人間の生活にあまり関わらない上に、大概が温厚だ。 「ふむ。――アルシャ」 関所を守っているのは、アルシャの指揮下にある朱金の隊だ。 「なるほど。盗品がキシン国に流れているかもしれませんね。わかりましたが……入るほうもですか?」 それから話題は別のことに転じ、しばらくした後にアルシャは退室した。イアンがアルシャを見送って戻ると、ダルシャは再び外の景色を見ていた。 「この件、おそらく将軍から報告がなければ、まだ私の耳には入ってなかっただろう」 イアンはおや、と未だに窓を見ているダルシャを見た。非常にわかりにくいが、あまり他人に感情を見せないこの国王はどうやらひどく憤っているようだった。 「どうやらお茶がさめてしまったようです。いれなおしてきますね。お詫びに陛下のお好きな花茶をいれてきます」 できる限りさりげなく言ったつもりだったが、ダルシャはイアンの意図を察したようだった。 「……すまない。今の私のこの感情は非常に個人的なものだ」 波乱の末に玉座に座ったこの王は、その若さゆえに老獪な貴族達から軽んじられているところがあった。その貴族達は、目立った行動こそしないものの、影でダルシャの失脚を望む。普段はその様なことは
おくびにも出さないし、実際ほとんど気にしてはいないようだったが、やはり時には思うところはあるのだろう。 敏感に若き王の憂いを感じたイアンは、あまり他人に感情を見せたがらないダルシャのために、静かに執務室を出た。 |
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