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黄昏色の樹の下で |
一章 三十話 |
「他、どこ襲われた?」
「えーっと、まずずっと南の方で2つの村が、あと――」 「地図、ある?」 「ああ、地図を見せたほうが簡単か。今はウィド中隊長が持っているちょっと来てくれ」 ウィドがいる天幕に入ると、そのこ主は相変わらず寝袋の上に寝転がっていた。 「お。イリナ殿にマルテ。どうしたんだ?」 「ちょっとイリナ殿の意見を伺うために地図が必要でして」 「ほうう……それなら、私もついでに意見を聞きたい。地図はこれだ」 ウィドはすぐそばに置いていた、マルテが書き写した地図をイリナに手渡した。礼を言ったイリナは、しばらく地図を見つめていたが、少し首をかしげながらウィドを見た 「地図。もっともっと詳しい物が欲しい。持っている?」 「詳しいというと? これでは不十分か?」 イリナは頷いた。詳しく話を聞くと、国境や関所、各騎士の宿舎の場所、見張り台などが記載された地図が欲しいようだった。 マルテたちは、さすがに見せることを許すことは出来なかった。これは軍事機密であり、いざ有事があった時にこの情報が漏れていると大変なことになる。 「持っているのか。なら、質問する。答えるところ、できるなら、答えて」 二人の困惑を察したイリナは、譲歩案を出した。それなら承諾できると、ウィドは頷いた。厳重に保管された、王から借り受けた地図を取り出してくると、ウィドはイリナを促した。 「――他に、どこ襲われた?」 「この、丸がついているところだ」 円座した三人の真ん中に置かれた、書き写された地図の上で、ウィドは指を動かした。 イリナ達が住まう村から、だいたい南北にかけて被害は広がっている。 「他の村、ここにはないの?」 「いや。わからない。この地図も少々古いものだから、もしかしたら新しい村があるかもしれない。実際に、被害を受けた村で、地図に載っていない村もあった」 ウィドは、何も地図記号がかかれていない箇所に記されている丸を指した。 他にも、国境やここから一番近い関所の位置などを聞き出したイリナは、しばらく地図をにらみつけるようにして黙っていた。 「さすがにわからないか……」 ウィドが諦めかけたときに、イリナが「これは想像」と前置きをして話し出した。 「人、全員、集める理由。目撃者いるの、嫌うから」 「ああ。それは私達も考えた。例えば、何か目立つ格好をしているとか、わかりやすい特徴を持っているとか、そういう理由なのだろうと考えている」 「そう。特徴ある格好」 「なぜ、そう断言できる?」 イリナはまるで何かを探すように目をぐるぐるとさせた。 「人を集める方法、ウィド達を思い出した。騎士のような格好で、村に行く。偽物の騎士達、例えば王の命令を伝える全員集まれ、言う。そうすれば村の人間、一箇所に集まる。そして殺す。とても簡単」 ウィドは自分達が、この村を訪れた時のことを思い出した。 「なるほど。生存者がいれば、騎士のような格好をした盗賊がいると噂されて、警戒されることになる。だから全員を集めて殺したのか」 「しかし、なぜそんな面倒なことを……」 イリナは続けた。 「村を襲う、お金のため違う。だから荷馬車ない」 「どういうことだ?」 イリナは地図上の丸い印をなぞっていった。始まりは国境付近の関所。そして止まったのは王都へと続く、大きな工事中の街道だった。 「ここから、ここまで。村、多分、全部なくなる」 ――それはどういうことか。 ウィドとマルテは地図に見入った。よくよくみると、確かに襲われた村は関所から街道へ向かう直線上に集中していた。 「まさか……隣国からの侵略?!」 この街道は、新たな輸送販路の確保、重商政策の一環として、先王の時代からの大きな国家事業として、工事が着工され、もうすぐで完工の予定の街道だ。一応正式に開通していないため、使用の許可はまだおりていないが、それでも地元の人間が遠出する時にこっそりと使う程度のことは、王家も黙認しているのが現状だった。 つまり、裏を返せば、この大きな王都まで伸びている道は、人目があまりない。新たなこの街道が出来上がるのを待ち望む声こそ多いため、工事中の現場ならともかく、出来上がってしまった箇所に見張りをつけることもしていなかった。 この街道をうまく使えば、人目につかずにかなりの速さで王都に到着できるかもしれない。 国境で番をしている 騎士達を素早く殺し、人のいない森を抜ける。街道では、先導を走らせ、人に見られたら口を封じ、機動力のある騎馬隊で特攻をかけて王都に流れ込む。そして後から歩兵が続いて入れば……。ウィドは頭の中で架空の馬や兵を走らせ、それがとても現実的なものであると認識した。 「それもある。あと、もう一つ」 「え?」 「この国の人、誰か、侵略手伝ってる。これは、えーっと、ハンラン?」 その時、村から鋭く馬の嘶く声がした。 |
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