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黄昏色の樹の下で

番外編

 ホムラという名まえは、イリナからもらったの。



 ぼくはホムラ。

 かなしいよるに、なみだをながしていたら、ぼくはイリナとであった。
 それまでのぼくは、ホムラではなかったけれども、ホムラもけっこうおきにいり。


ぼくは、なんでも食べるけど、とくに木の実がだいすき! この赤いいろの実は、すっぱくってあまい。なんだか、しあわせになれる。

 これはしあわせの実だ。

 むちゅうで食べていると、イリナがへやに入ってきた。

「……食べすぎ」

ああっ。とらないでとらないで……っ。ぼくのしあわせの実、とらないでっ。

 ぼくはイリナからしあわせの実をとりかえそうと、イリナの足にしがみついた。

 いっしょうけんめい、おねがいをしていると、イリナは、しあわせの実をはんぶんにわって、ゆかにおいた。

 のこりのはんぶんは、イリナの口の中。

えーー。ぼくのしあわせの実はんぶんだけっ!?

「それ、いらない?」

いるっ。

 イリナがゆびをさした、ゆかの上の実にしがみついた。

これだけはとられないもんっ。

 そうやってぎゅーっとしがみついていると、イリナはへやからでていった。ようやくあんしんして、またかじりついていると、もどってきたイリナは外にでかけるかっこうをしていた。いつものカバンももっている。

お出かけお出かけ?
あ。でも、ぼく、まだしあわせの実たべおわってないよ。
まってまって、イリナ!

 ぼくはしあわせの実を鼻の頭で押しながら鳴いて、イリナをおいかけた。

「ホムラ、ここ、いる」

おるすばん?

 とっさにしあわせの実からはなれて、イリナにとびついた。

「ホムラ」

 でも、ぼくはなさない!

 おいていかれるのは、さびしくて、こわくて、いやなんだ。
ぼくのしあわせの実、あげるからおねがい。

 イリナは、どうしてもだめだって、言うときもあるけど、でもおねがいをいっぱいすると、つれていってくれることもある。

「だめ」

 それでもだめって言われて、かなしくなった。

 たぶん、むらにいくんだ。
そんちょーとか、リリィとかいるばしょだけど、ぼくはきらい。むらにいくときは、なかなかいいよ、っていってくれないから。

イリナは、ぼくをつまみあげると、しあわせの実のうえにおいた。ぐらぐらとゆれる実の上で、もういっかい、いっしょうけんめいおねがいしてみたけど、それでもだめだった。

 パタンとしまるドアがみえた。
 むねがシクシクする。

いいもんいいもんっ!
ぼくはおこってやるんだから!

 しあわせのあじが、あんまりしなくなった実をたべおえると、ちょっとだけあいていた、ちょぞうこのとびらをくぐる。

ちょぞうこには、いろんなものがたくさんあるんだ。

 くらいちょぞうこの中は、いろんなにおいがする。
いちばんは、くさのにおいだけど、いろーんなのがまざっているから、ふしぎなにおい。
イリナも、このにおいがする。

 たかいたなのうえは、ぐーーっとあたまをそらして見てみても、ぼくにはみえない。
 あまりにも、ぐーっとしすぎて、どっちが上でどっちが下だかわからなくなって、ごろんとひっくりかえってしまった。
なんだかはずかしくて、ぐるぐると、そこらへんをはしりまわる。

ふー。ちょっとつかれちゃった。
あ。そういえば、イリナのことをおこっていたんだった!

ぼくのことおいていってーっ。ぼくだっておこるんだから!

 えいっとゆかにおかれていた、やくそうをかじる。

 まだまだっ!
こんどは、くさをつつんだあぶらがみっ。
……これは、ちょこっとね。イリナ、おこると、すごいこわいんだもん!

 あとはあとは……

――カタン

 かたん?
え?なになに?

 きょろきょろしてまわりを見ると、ちょぞうこのとびらがしまっていた。

なんでなんでっ?!
そうおもっていると、いえがすこしゆれた。つよいかぜがふいているのかな。それで、いえがゆれたときに、しまっちゃったみたいだ。

なんだっけ、そんちょーが、まえにいってたこと……ここは、たけつけが……じゃなくて、たちつけ?あれ?
とにかく、このいえは、あんまりよくない、ってことをいっていた。
そうだっ。とびらがあかなくなるとか……。

そんなっ、イリナイリナ!
ぼく、ここからでられなくなるの?!
しあわせの実も、パンもたべられないの?!
イリナともあえないの?あたまをなでてもらったり、だっこしてもらえないの?!

 とつぜん、ちょぞうこのちいさいまどが、ぴかっとひかったとおもうと、おおきなおとがして、ぼくはおもわず、ぴゃっととびあがった。

なになになに?!

 もういっかいぴかっ。

 かみなりだ!

 そのとき、びゅんってかぜがふいて、いえが、おおきくゆれた。とたんに、たなのうえからなにかがおちてきて、ガタンて大きいおとがした。
ぼくはびっくりして、たなのすみにかくれる。とたんに、またかみなり。

――こわいし、さみしい。

 さっきのシクシクがまたもどってきた。

ここで、ずっとひとりぼっちなのかな。
それはいやだな。
でも、すごくすごくこわくて、さみしいから、このまましんじゃうかもしれない。 そうしたらどうしよう。
ぼく、しんだらどうすればいいんだろう。
それは、いま、こわいことよりも、もっともっとこわいことにかんじた。
こわいよりもこわいって、どれだけこわいんだろう……。
いっぱいおねがいしたら、イリナもいっしょにいてくれるかな。そうしたら、こわいよりもこわいことも、すこしだけ、こわくなくなりそうだ……。

うすぐらい中で、そんなことをかんがえていたら、なんだか、とろとろとしたくらいなにかに、とけていく気がした……。



――だれかによばれていた。

 はっとして、あわててめをひらく。

「ホムラ」

イリナー!
ぴょんと、しゃがんでいたイリナにとびつく。

「ホムラ、ここ、なぜ。私心配した」

 イリナは、とびついたぼくを、うけとめると、てのひらのうえで、なでてくれた。
きもちよくて、もっともっとってあたまをこすりつける。

あのねー。びゅんてして、ぴかってして、どーんてしたの!

 ……はっ。
そういえば、ぼく、おこっていたんだった!
ここは、だんこ、こうぎをするんだーっ。
で、だんこって、どういういみ??

「ホムラ、焼き菓子、もらった。たべる?」

たたたたべるーっ

 だんこっていみは……しらなくてもいーやっ。

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